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mike nelson(マイク・ネルソン)(1967-)
Spanning Fort Road and Mansion Street: Between a Formula and a Code is in Margate (2005)
(Margate, UK)
かつては風光明媚な海辺の街として栄えた英国南東部ケント州にあるマーゲート。でも今は海岸通りの空家も目につく程、寂れており閑散とした雰囲気が漂う。
このマーゲートの裏通りには昔、死体安置所があった。そしてその隣にひっそりと立つ空きビルでは、各種の闇事業(ポルノ・シネマ、ジム、マリワナ栽培等)が営まれていたという。ネルソンは、この建物内を改造し、大掛かりな水耕栽培システムを導入。マリワナに酷似するハイビスカス(Hibiscus cannabinus L )を栽培する、と言う大胆なインスタレーションを制作した。
迷路のように入り組んだ17部屋を方向感覚がおぼつかないまま、手探りで練り歩く。
大きな扇風機が旋回する生暖かく湿っぽい風に吹き付けられながら、異様に明るいライティングに浮かび上がる何百という植物に取り囲まれていると、奇妙で掴みどころのない不吉な予感に押し潰されそうになってくる。剥き出しの壁、薄汚いテーブルに置き去りにされた古いコンピューター、一つ一つの物体に隠蔽された秘話が気付かないうちに身体にへばり憑いてしまい、それが振り払えない分かった時の居た堪れなさ。「ここで誰が何をしていたのか」囁きかけてくる様な錯覚に何度も襲われる。
こんな陰鬱感に囚われたのは私だけではない。事実、同インスタレーションは公的団体によって、不吉な雰囲気が漂っており観る者によっては刺激が強すぎる、と判断された為、展示管理スタッフは、神経過敏な観客向けにパニックアラームを常備するように要請されたという。
それにしてもネルソンは、常にポリティカルで多義的な作品を創り続ける、秀悦な英国アーティストだと感銘。
INGO MAUrER(インゴ・マウラー)(1932-2019)
Tableaux Chinois (1989) @ Centre Pompidou (Paris, France)
「光の魔術師」と讃えられたドイツの照明デザイナー、インゴ・マウラー。
自由な発想に基づき、機能的かつ機知に富ぶ、コマーシャル化された従来の照明デザインとの一線を遥かに超えた秀悦な作品を数多く創っている。代表作は "Bulb""YaYaHo" 、羽の生えた "Lucellino" が知られている。
ポンピドーセンターで展示されていた同作品は、水槽に入った金魚の動きが、ライティングによって水面と壁に設置された鏡とアルミニウム板に反射され、トロンプ・ルイユ(Trompe-l'œil、騙し絵)的な効果を生み出す、という遊び心に溢れるモノ。光線の当たり具合によって、動くオブジェのイメージを変幻自在に変化し続ける様を、楽しませてくれる目に美味しい作品だ。